それを、人は何と言うのだろうか。何によって、人はそれを定義するのだろう。
だって、血の繋がりなんて、本当はどうでもいいことだと思うんだ。
見えないところで繋がって、絶対離れられないんだよ。
そう、「家族」って、きっとそういうものだよね。
13.The joy and the just a little it is sad seeing.
暖炉の火が、パチパチと音を立てている。
しかし紅一色の談話室は、そんな小さな音など聞こえないくらい賑やかだった。
上級生の女生徒たちは、ドレスローブの話に花を咲かせている。
男子生徒たちは、どの女の子をダンスに誘うか、今から緊張している。
クリスマス休暇は、目前に迫っていた。
「は残るんだね? そっか・・・僕はどうしようかなぁ」
チェス盤を見つめ、リーマスは呟いた。
「他の人はどうなんだろうね。ピーター、君は休暇中学校に残る?」
その隣でカレッジを撫でながらがピーターに尋ねた。
ピーターはリーマスと向かい合ってチェスの対戦中だ。
「まだ考えてないんだ。でも、パパとママは好きにしなさいって言ってた。
ジェームズとシリウスがどうするか、知ってる?」
「っていうか二人ともどこに行ったんだろうね」
そう言うとは首を巡らせて談話室を見回した。
とリリーは、梟小屋に行っていて今は居ない。
しかし、その二人が談話室を出るより前に、ジェームズとシリウスは何処かへ行ってしまったのだ。
「ま、大体予想はつくんだけれど」
「、二人がどこに行ったか分かるの?」
「フィルチかピーブズだろうね。悪戯を仕掛けてるか、一緒に遊んでるか・・・・・・
はいピーター、チェックメイト」
リーマスが駒を盤に置いた。
ピーターはあんぐりと口を開いた。ぱくぱくと動かしたその唇は、信じられないと言っている。
「凄いやリーマス。僕、こんなに早く負けたの初めてだよ」
それに対して、リーマスはにっこりと微笑んだ。
「得意なんだ、こういうの。、次やらない?」
「僕はピーターよりも弱いよ。カレッジの方がやりごたえあるんじゃないかな」
は、膝の上のカレッジに目を遣った。
その時、談話室の肖像画が開いた。
リーマスが、入ってきた人たちに手を振る。
とリリーは、穴をくぐると手を振り返し、こちらにやってきた。
「ふぃ〜寒かった。あ、チェスどっちが勝ったのー?」
その区画で一番暖炉に近い席―――の隣に腰を下ろし、は盤を覗く。
「黒の勝ちね。場所からすると、リーマスかしら?」
ピーターの隣で、リリーが聞いた。ピーターは、うんと頷いた。
「リーマス、凄く強いんだよ。あ、一回やってみれば?」
「ふーん、面白そうだねぇ。のった。リーマス、やろー」
ピーターが明け渡した椅子に座り、はリーマスと向かい合う。
あたし白ね、と言って、勝手に盤上の駒を動かす。リーマスはを見た。
「なんか僕、数分で勝てそうな気がするんだけど・・・って強いの?」
確かに、彼女を見ただけではそうとしか言えないだろう。
は苦笑いを浮かべて言った。
「勝率100パーセント。なめてかからない方が身の為だよ」
リリーは勝負が始まってすぐ、一度部屋に向かった。
そして分厚い本を手に、談話室に戻ってきた。
「そういえば、ジェームズとシリウスはまだ帰ってきてないの? どこまで行ってるのかしら」
の横に腰を下ろし、本を開く。その斜め前では、早くもリーマスが難しい顔をしていた。
「って事は二人とも、途中で会わなかったんだね?」
「ええ、声も聞こえなかったわ。まったくあの人達ったら、私達が帰った時点でもう外出禁止じゃない」
確認するように尋ねた。リリーはそれに少し苛々したように答えた。
彼らに呆れる反面、止めない達にも反感を抱く。
しかしそんなリリーの様子には誰も気付いていないようだった。
ピーターとカレッジは目の前の対戦に夢中だし、も、気付いているのかもしれないがその点には触れないでいる。
リリーは小さく溜め息をついた。
がクスクス笑う。
「幸せ、逃げるよ」
「これぐらいで逃げていくなら、世界中の人が不幸だわ」
「確かにね。リーマスとか、もう駄目だろうな」
なかなか自分の思うようにいかないリーマスは、先程から何度も溜め息を繰り返していた。
その隣で笑い続ける。
本当に、綺麗に笑う。リリーは知らないうちに見惚れていた。
突然、談話室のざわめきが消えた。
何事だろうと、カレッジが首を伸ばす。
エメラルド色のローブを着たマクゴナガルが、羊皮紙の巻紙を手に、そこに立っていた。
彼女は談話室をぐるりと見回し、途中でふと視線を止めた。
「ポッターとブラックはどうしたのです?」
今は外出禁止時間だ。もしこれで二人が居ない事がばれたら・・・リリーの胃が揺れた。
と、が平然と答える。
「二人は部屋で寝ています。昨日、遅くまで変身術の宿題をしていたので」
マクゴナガルはひとつ頷いて視線を外した。
その瞬間にも視線をリーマスに向ける。二人は目だけで笑いあった。
リリーはまた溜め息をつく。
しかしそれはマクゴナガルの声で消されてしまった。
「まもなくクリスマス休暇に入ります。休暇中学校に残る生徒は、明日の夕食までにこのリストに名前を記入しなさい」
リストはどの寮にも設置されているようで、次の日の朝は、どのテーブルもクリスマスの話で持ちきりだった。
「四年生から上は殆どが残るみたいだね」
ピーターはフォークにソーセージを刺しながら言った。
その向かいでジェームズが頷く。
「だってダンスパーティーに参加できるんだろ? そりゃあ残ると思うよ。
ま、僕は出れなくても残るけどね。いつかエバンスと出ることを考えて、イメトレに励むのさ」
「それが夢で終わらなければいいけどね・・・」
ふふん、と胸を張るジェームズから目を逸らし、リーマスがそっと呟いた。
「だけど、たった一日で残るか帰るか決めるなんて、ちょっと大変そうだよね」
「そーか? 残る奴は、大抵決心してるだろ」
「そりゃお前だけだ」
カレッジが、の膝の上からシリウスに突っ込んだ。
不思議そうな視線がカレッジに集まる。
「ホラ、後継者は残るって決まってるだろ? だからいつも一番最初に名前を書くんだ。
ホグワーツの後継者よりも先にリストに名前上げた奴なんて、シリウスが初めてだぜ」
感心したように、ジェームズとが声を上げる。
「お前、やけに早く行ったと思ったら、一番最初に書いてたのか」
「何、そんなに学校が気に入ったの?」
シリウスは、きょとんとしてを見た。そして、深く溜め息をついた。
「そうじゃねぇんだよ・・・」
「え?」
「シリッウス〜!」
突然、の向かいのシリウスが消えた。
否、消えた訳ではなく、彼の首にが飛びついたのだった。
「シリウスシリウスシリウス! 今年はブラック家でやるんだって! でね、でね、パパが」
「、ストップ! ブラックが窒息しかけてるわ!」
後ろからやってきたリリーは、慌てての腕を押さえた。
「ふわ? はぅっ、ごめん」
はぱっと手を離した。
テーブルと対面どころかキスまでしかけたシリウスは、更に深い溜め息をついた。
「・・・なんだよお前、帰るのか? つーかブラック家でって・・・何の話だよ」
「うん。だってパパがクリスマスパーティーに出るんだって。今年はブラック家でやるらしいよ。
それにしても、表に顔を出すなんて・・・
シリウス、何年ぶりか覚えてる? あたしが五歳の時からだから、六年ぶりなんだよ!」
ずっと外との接触を断ってきたのに! と、はそう言って嬉しそうに飛び跳ねた。
ジェームズが指を折りながら、首を傾げた。
「計算が間違ってるよ、。五歳からだと・・・七年ぶり、なんじゃないか?」
は目を瞬かせ、ジェームズを見つめた。ついでシリウスを見る。
なにやら考え込んでいたシリウスだったが、うんと一つ頷くとの目を見返した。
「一年間違えてるぜ、お前。しっかりしろよ」
「うに・・・そっか。うん、ごめん。あんまり嬉しかったから。
それにね、お迎えに、ジョンが来てくれるんだって!」
ジョン、とは家の若い執事である。
えへへと笑って頭に手を遣る。そんな彼女を皆が微笑ましく見たときだった。
「シリウス・ブラックは・・・ここのようね」
女性の声がした。
シリウスはぴたっと固まる。はきょとんとして固まる。ジェームズの頬を冷や汗が伝い落ちる。
リリーはそんな三人と、向かい側で固まっている達三人を見比べ、訝しげに振り向いた。
漆黒の黒髪が腰辺りで揺れている。
そう、ジェームズの言うところの「超絶美人なお姉さん」は、艶やかな笑みを浮かべてそこに立っていた。
「「ベラ!」」
シリウスとが同時に大声を上げた。
ベラ、と呼ばれた女生徒はの頭を撫でる。
「こんにちは、。元気そうで良かったわ。グリフィンドールは楽しい?」
「うん、とっても!」
が答えると、彼女は頷いて手をどけた。
「そう、スリザリンでもあなたを待っていたのだけど、まあ、楽しいなら仕方ないわね。良かったじゃない」
そして彼女はシリウスに向き直った。
「覚えていたかしら? クリスマスパーティーのことだけど」
「ああ、今に強制的に思い出さしてもらったところだ」
シリウスは挑むような目つきで女生徒を見た。
「あら、年上をそんな風に睨むもんじゃないわよ。
帰ってらっしゃい。あなたのお母様のご命令よ、反論は許されないわ」
「は!? そんな話までは聞いてねぇよ! 何で俺が帰らなきゃ・・・!」
「あの・・・失礼ですが、ミス・ブラック?」
ジェームズが口を挟んだ。彼女の目が爛々と輝く。
シリウスは非難がましくジェームズを見た。
「何でお前・・・知り合いなのかよ」
「始業式の日から追い回されたって、言ったじゃないか」
「だってジェームズ君、可愛いんですもの」
うふふ、と彼女は笑う。
ジェームズは溜め息をつくシリウスを尻目に、尋ねた。
「でも、シリウスはもうリストに名前を書いてしまったんです。今更取り消しなんて・・・」
「そこら辺の心配は要らないわ。全てルシウスが何とかしている筈よ」
「あの野郎・・・!」
「そんな事言うんじゃないの」
唸ったシリウスに、女生徒はでこピンをした。かなり痛そうだった。
彼女は身をかがめ、シリウスに耳打ちする。
「アイツは私みたいな寛容な反応が出来ないんだから、少し大人しくなさい。
これじゃいつまでもガキのままよ。絡まれてもいいって言うんなら、ま、せいぜい頑張ることね」
彼女は身を起こすと、一同を見渡し、微笑んだ。
「良いクリスマスを。ごきげんよう」
リーマスが肩の力を抜いた。
「う・・・っわぁ・・・凄い美人。今の、誰?」
答えないシリウスに代わって、が答えた。
「シリウスの従姉の、ベラトリックス・ブラック。スリザリン寮の五年生だよ」
「ふーん。ところでシリウス? 君、家に帰るのかい?」
シリウスは不機嫌そうに鼻をならした。
リリーが戸惑い気味に言う。
「でも、今の彼女の口ぶりからすると、帰らなきゃいけないみたいよね」
「シリウス、どうするの?」
は顔を窺った。シリウスは乱暴にゴブレットを置いて立ち上がった。
「帰ればいいんだろ、帰れば。一族としては、笑い者にしたいだけなんだろうよ」
「じゃあ、シリウスが帰るって事、パパへの返信に書いとくね。そしたらそっちにも伝わると思うし」
シリウスはサンキュ、と言って歩き出した。
その後ろ姿に、ジェームズが呼びかける。
「おーい、どこ行くんだ?」
「教科書取ってくる!」
苛々した声が返ってきた。ジェームズとリーマスが溜め息をついた。
「?」
焦ったようなピーターの声が聞こえた。
は腕で身を抱いて小さく震えている。
「どうしたの? 、大丈夫?」
ジェームズがテーブル越しに、身を乗り出した。カレッジは肩に飛び乗り、頬を舐めた。
は、長く、重く息を吐いた。
「には、悪いけど・・・・・・あの人嫌だ、怖いよ」
「あの人って、ベラ?」
が頷く。
「いや、確かにミス・ブラックは怖いけど・・・大丈夫だよ、そんなに悪い人じゃ」
「見た目からは、心の中なんて推し量れないよ」
ジェームズの言葉を遮り、シビアにが言った。
そしてゆっくりと立ち上がる。
「ごめん、医務室に寄ってから授業に行くよ。すごく気持ち悪いんだ」
「あの女だけが原因じゃないだろ」
廊下に出ると、カレッジがそう言った。
「え?」
とぼけて聞き返すが、彼には通じない。肩の上からじっと目を見つめている。
は溜め息をついた。
「まぁ、ね・・・」
実際、半端ない量の様々な感情が、血を騒がせている。
ベラトリックスの隠れた悪意もその中に含まれてはいるが、それだけではなかった。
ハロウィーンの時に感じた、の「違和感」。
それが再び思い出される。
「家族」に過剰な反応を示すシリウス。
城を特別気に入ったわけではない。では、家が気に入らないということなのだろうか。
どうにしても、には理解が出来なかった。
クリスマス休暇の初日、キングズクロス駅九と四分の三番線に紅の汽車が滑り込んだ。
結局、学校に残るのは、ジェームズ、ピーターの三人だけ。
迷っていたリーマスも、取り敢えず今年は帰ることにしたのだった。
「それじゃ皆、休暇明けにまた会いましょう。元気でね」
マグルの世界に帰るリリーは、やや頬を上気させ、柵を通り抜けていった。
三人の返事も待たずに、手を振って行ってしまう。
よほど家が恋しいのだろうと、シリウスは思った。そして、自分には決して感じ得ない気持ちだ、とも。
「エバンス、なんだか溌剌としてたね」
「そうだね、すっごく嬉しそう」
穏やかに笑うリーマスに、はにっこりして答える。
休暇前日、リリーは部屋で家族について熱く語っていた。その時の様子をリーマスにも教えてあげたい。
いつも冷静なリリーらしくない、いやに興奮した様子だったのだ。
それを知っているからこそ、はとても嬉しかった。
何も知らない世界に突然放り込まれて、これまで、リリーはどれ程心細かったことだろう。
は もう一度にっこり笑った。
―――リリーはようやく、家族に会える―――
「リーマス」
柔らかな女性の声がした。
シリウスも含め、三人揃って勢いよく振り返る。
「お母さん!」
ふんわりと笑う女性が、頬に手を当てて微笑んでいた。
鳶色の髪の毛が、リーマスと同じだ。
「あら、お友達?」
リーマスの母親が、二人を見て首を傾げた。
シリウスが会釈をした。
「シリウス・ブラックです」
「あなたがシリウス君なのね。初めまして、リーマスの母です。
いつも仲良くしてくれてるみたいで・・・どうもありがとう」
シリウスは、隣でぼーっとしているを肘で突いた。
我に返ったは、慌ててぺこりとお辞儀した。
「・です、初めまして」
「初めまして、ちゃん。これからも仲良くしてやってね」
「はいっ、勿論!」
微笑まれて、はにっこり笑った。そして一瞬、物悲しい感傷に浸る。
―――もしも母親が生きていたら、こんな風に迎えに来てもらえただろうか。
「じゃ、僕も行くね。二人とも、良いクリスマスを!」
リーマスが手を振って、行った。
二人も手を振り返す。すると、シリウスの手が誰かに掴まれた。
顔をそちらに向けると、そこには見知った女生徒の姿が。
「ベラ! なんだよいきなり!」
「全く、アンタときたら顔をあわせるとすぐに文句ばっかりね。
連れて帰るように言われてるの。ホラ、行くよ。またね、」
急いでいるのか、ベラトリックスはシリウスの手を離し、彼に荷物を持たせると足早に歩いていった。
シリウスは深い溜め息をつく。
「予定なら、俺は今頃暖炉の前でチェスをしているはずなんだけどな・・・」
は思わず苦笑いをした。
「仕方ないよ、運命なら」
「へーへー。じゃ、またすぐ会おう」
遠くから呼ぶベラトリックスに大声で怒鳴り返すと、シリウスは肩を竦め、カートを押して走っていった。
一人になり、は迎えに来るはずのジョンを待つ。
何処かからあの金髪が見えやしないか、と。
興奮が高まる。
「お嬢さま」
隣から声がした。
胸が跳ねる。満面の笑みでは横を見上げた。
待っていた、優しい瞳。
「ジョン!」
ジョンは微笑むと、付き添い姿くらましをする為ににトランクを握らせ、彼女と左手を繋いだ。
「さあ、帰りましょう。お父様がお待ちですよ」
「うん!」
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